中村亨のビジネスEYE

平成の経営者ランキング

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1位 孫 正義氏  ソフトバンクグループ会長兼社長
2位 稲盛和夫氏 京セラ・KDDI創業者
3位 柳井 正氏  ファーストリテイリング会長兼社長

平成の30年間における経営者ランキングが発表されました。こちらの結果は、経営者の方々を対象にアンケートをとり、結果を集計したものです。
(参考:『経済界』2018年12月号)

 
今回は、経営者ランキング第1位の孫 正義氏について、下記の4点から考えます。
(1) 平成の経営者ランキング
(2) 実質的には投資会社へ
(3) ソフトバンク・ビジョン・ファンド
(4) 利益日本一の虚実

(1)平成の経営者ランキング

前出のランキングの続きをお伝えします。

4位 永守重信氏 日本電産会長
5位 三木谷浩史氏 楽天創業者
6位 カルロス・ゴーン氏 日産自動車前会長
7位 豊田章男氏 トヨタ自動車社長
8位 前澤友作氏 ZOZO創業者
9位 鈴木敏文氏 セブン&アイ・ホールディングス前会長
10位 澤田秀雄氏 H.I.S会長兼社長

第1位は、ソフトバンクグループ(SBG)の孫 正義氏。
通信事業者としての枠を超え、大きなスケールで将来を見据える経営スタイルが光ります。
2016年「IoT革命」をにらみ、英・半導体大手のARM社を買収(3.3兆円)するなど、時代の大きな転換点を読み、目利き力を武器に新興ハイテク企業を先物買いしています。また、国家や企業のトップに働きかけ、有利なビジネス環境をつくりだす行動力は抜群です。

第2位は、小さな町工場だった京セラを一躍、世界の京セラへと育て上げた稲盛和夫氏。
その後、NTT独占だった日本の通信業界に風穴をあけるべく創業したDDI(KDDI)も現在は売上3.5兆円規模の企業となっています。さらに、2010年2月には、会社更生法を申請した日本航空(JAL)を再建すべく、代表取締役会長に就任し、着任の翌期には黒字化に成功しました。数々の名言は著書を通じて多くの人の心をとらえています。

第3位は、ファーストリテイリングの柳井 正氏です。
年間2兆1,300億円を売り上げるアパレル世界大手のファーストリテイリング。世界で約2,000 店を運営するカジュアル衣料品店「ユニクロ」を中心とする企業体をわずか30年余りでつくりあげた実業家としての手腕が光ります。「情報製造小売業」という新しい産業を創造し、世界No.1を目指し、服のビジネスを通して世界を変革しています。

(2)実質的には投資会社へ

12月19日、SBG傘下の携帯電話事業子会社、ソフトバンクが東京証券取引所第一部に新規上場しました。株価の終値は、公開価格の1,500円と比べ218円(14.5%)安の1,282円となりました。企業価値を示す時価総額は6兆1,271億円となり、公開価格ベースの7兆1,807億円から1兆円目減りしたことになります。

12月6日には通信障害が発生し、また関係の深い中国・華為技術(ファーウェイ)を巡る米中のあつれきも加わったことが、悪材料になった可能性があります。

携帯電話事業は、楽天の携帯電話事業への参入表明、総務省による料金引き下げの要請、携帯電話の普及(コモディティ化)などにより、長期的には収益をあげることが難しくなってきています。そのため、今後、ソフトバンクは通信事業を基盤にするものの、実質的には投資会社に変わっていくようです。

(3)ソフトバンク・ビジョン・ファンド

昨年、孫氏は「ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)」を設立しました。孫氏がサウジアラビアのムハンマド皇太子に「石油の次はデータだ」と力説し、45分の面会で450億ドル(約5兆円)の出資を得たという、創設の経緯は有名でしょう。

SVFの投資先は、足元で推計約70社6兆円弱に膨らんだもようです。「人類史上最大の革命、人口知能(AI)革命を起こし人々を幸せに」と説く孫氏の理念を反映しています。

【ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)出資先の例】
・半導体エヌビディア
・シェアオフィスウィーワーク
・ホテル運営OYO

【ソフトバンクグループ(SBG)出資先の例】
・アリババ 
・ウーバー 
・滴滴  

(4)利益日本一の虚実

SBGの孫氏は、「来年は日本経済が経験したことのないレベルの営業利益がだせる」と、11月の決算発表時に発表しました。
実際、利益水準はトヨタ自動車を射程に収め「日本一」の座をうかがいます。
SBGの2018年4~9月期連結営業利益は1兆4,207億円と、トヨタの1兆2,618億円を上回りました。

実は、SBGは2019年6月に約1兆円の利益を「予約済」なのです。
正体は約3割を持つ中国・アリババ集団を2016年に一部売った際の利益です。
アリババ株の需要への影響も考え、単純に売らず、デリバティブ取引をかませて来年の6月の先渡し契約を結びました。
アリババの株価に応じ変動するが、9月末と同水準なら1兆円超の利益がでる計算となります。

「元手」は2000年、孫氏がジャック・マー会長を見こんで投じた20億円。
保有株時価は今や約6千倍となります。上期のSBGの連結営業利益の4割弱は「未実現評価益」、つまり「未来のアリババ株」が占めることになります。
未実現評価益とは、投資先の企業価値を四半期ごとに評価し値上がり分を計上する会計上の概念で、キャッシュは生みません。
キャッシュの源泉である「営業キャッシュフロー(現金収支)」はトヨタの半分以下ですので、利益の「質」は大きく異なります。

巨額利益に化けもすれば、株価次第で損失にも転じる評価益。グループ連結の有利子負債は手元資金と相殺しても13兆円。米格付け会社による社債格付けは[BBプラス]と投機的水準とみられます。

平成の経営者ランキング第1位の孫氏ですが、新しく誕生した株主も、孫氏の賭けとは無縁ではいられないでしょう。
(参考:日本経済新聞12月9日)

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。