中村亨のビジネスEYE

組織再編時の「繰越欠損金」処理に国税のメス

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中村亨の「ビジネスEYE」です。

ゴルフ場運営などを手掛けるパシフィックゴルフマネージメント(以下、PGM)の子会社が東京国税局の税務調査を受け、50億円の申告漏れを指摘されました。

税務上の赤字(欠損金)が出た場合、翌年度以降に持ち越して黒字(課税所得)から差し引き課税所得を下げることができます。その結果、納税額を減らすことができる「繰越欠損金」の税制度を企業再編時に不適切に利用した、というのがその理由です。

繰越欠損金を巡っては、過去にもヤフーで最高裁まで争った事例もあります。
今回のビジネスEYEでは、租税回避とみなされた組織再編(合併)時の繰越欠損金について見てみましょう。

(参考:日本経済新聞/2021年5月11日)

国税当局が問題視したPGMの企業再編

PGMグループは、過去に買収したゴルフ場を保有する会社について、以下の二つに分割。
①事業を行う会社
②繰越欠損金を持つ会社

その後、②繰越欠損金を持つ会社は別会社と合併。最終的に子会社のPGMプロパティーズがこの会社を合併し、約50億円の欠損金を引き継ぎました。

この合併について東京国税局が「繰越欠損金を使うために行われた合併」であるとして今回の指摘となりました。PGM側は、ゴルフ場を買収して拡大を図ってきたビジネスモデルの一環であり不当なものではないと主張しています。

繰越欠損金を巡る最高裁の判断

過去にヤフーでは、データセンター運営会社を買収し、欠損金約540億円を自社の利益と相殺した税務処理を東京国税局から指摘され、最高裁まで争いました。

最高裁は、「組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるもの(法人税法132条の2)」と判断し、ヤフーの上告を棄却しました。濫用の有無の判断に当たっては

・当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど,不自然なものであるかどうか

他、合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか、などを挙げています。

今後の企業のM&Aや再編への影響

年度をまたいで税務上の損失を持ち越すことができ、税務上のメリットがある繰越欠損金ですが、繰越欠損金を抱えた企業を合併するケースでは、絶税目的だけの場合には国税当局が問題視する可能性が高いです。

今回のPGMの展開次第では、企業のM&Aや再編の手法などに一定の影響を及ぼす可能性は否めません。

不当な租税回避とみなされないためには、企業の税務処理の手順や方法が不自然ではないか、組織の再編に合理的な理由があるかどうか、過去の事例を元に総合的に判断し、再編の戦略を立てる必要があるでしょう。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。