中村亨のビジネスEYE

セブン 脱「効率格差」

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セブン&アイ・ホールディングスが大規模なリストラを計画しています。
昨年10月、総合スーパー(GMS)と百貨店を中心に不採算店を閉め、人員も自然減を含め3,000人減らすと発表しました。
背中を押したのが稼ぐ力の指標のひとつとして投資家が重視するROA(総資産利益率)経営です。

投資家が重視するROA経営によって、最高益が続くうちに更なる勝ちパターンを固めたいというのが、セブン&アイの考えのようです。

今回の【ビジネスEYE】では、セブン&アイの脱効率格差に向けた取り組みを見通してみましょう。
(参考:日本経済新聞/2019年10月16日、11月24日)

1.ROA(総資産利益率)とは?

ROA(Return On Assets)とは、総資産に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す、財務分析の収益性の指標です。
純資産(自己資本)、負債(他人資本)を含め、全ての資本をいかに効率的に運用できているかを表す情報とも言えます。
ROAを見れば、企業が総資産をいかにうまく使って利益を生み出しているかが分かります。

一般的にROAが5%を超えていると優良企業と言われており、セブン&アイの2019年2月期は、連結全体で7.3%と高水準です。

しかしながら、事業ベースで中身を見てみると…

国内コンビニ・・・21.7%
海外コンビニ・・・7.2%
専門店・・・・・・4.5%
金融・・・・・・・3.6%
GMS・・・・・・2.2%
百貨店・・・・・・1.1%

そもそもコンビニ事業は、店舗の土地や建物を借りるケースが多いため、ROAが高く出やすい事業なのですが、
国内コンビニ事業のダントツの数字がけん引している結果であることは明白ですね。

国際会計基準を適用して、店舗の賃借不動産を資産計上しても、国内コンビニ事業は10%を超えると計算することができるため、
資産を有効活用できている事業と言えます。

連結も含めて高水準とはいえ、GMSや百貨店事業が低迷しているため、好調が食われている状況を投資家は厳しい批判で迎え撃ったのでしょう。過去セブン&アイは、コンビニ専業の会社になるべきとの要求を突き付けられたこともあったそうです。

コングロマリット(複合企業)による超過収益を得られていない事実が、投資家から重く受け止められているのではないでしょうか。

2.勝ちパターンの一手は…?

コンビニが、どんなに成功したビジネスモデルであっても、社会や経済環境が変われば通用しなくなるのは当然のこと。
1970年代に登場し、大手3社で5万店を数える「社会のインフラ」となったコンビニですが、人口減少を背景とする顧客の奪い合いは必至です。

1店舗当たりの商圏人口は3,000人と言われていますが、8割の自治体で下回っているのが現状です。
昨年7月に沖縄に初めてのセブンイレブンが出店したニュースは皆さんのご記憶にもまだ新しいほうだと思いますが、
空白地帯を埋めるためとはいえ、出店による拡大戦略も頭打ちを迎えていると言わざるを得ません。

セブン&アイは、稼ぎ頭のコンビニに経営資源を集中させることで、さらにコンビニの収益性を見直し、勝ちパターンの一手とするようです。

コンビニの立地やロイヤルティーの見直しなどで改革の手を入れ続け、24時間営業の見直しによる時短営業や元旦閉店の実験も
この改革の一端を担うよう検討してくるでしょう。

他社も、直営店を増やして人材配置を柔軟にする、収益源を増やすべく商品製造を手掛けるなど、攻勢をしかけてきています。
加えてドラッグストアやネット通販など新業態からの参入も強まってきました。

一部の株主からは、GMSや百貨店だけでなく、キャッシュレス化に遅れを取るセブン銀行の売却なども要求されていると噂のセブン&アイ。物言う株主への対処という一過性の動きではないものの、時代の要請にいかに対応できるかが、中長期的に成長できるカギとなることでしょう。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。