中村亨のビジネスEYE

ハラスメントの経営リスク

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18年度に全国の地方労働局などに寄せられたパワーハラスメント(以下、パワハラ)などの相談件数は前年度比14.9%増の8万2,797件と過去最高を更新しました。

一方で、パワハラ対策を行っている企業の割合は52%、従業員99名以下の企業においては26%と対応不足の感は否めません。

ハラスメントによって関係者が受ける影響は様々ですが、企業においては、安全配慮義務違反、損害賠償の請求などの民事責任だけではなく企業のイメージダウンや信用失墜から業績低迷、人材流出といった軽視できない経営上の損害リスクを内包しています。

今回の【ビジネスEYE】では、ハラスメントの経営リスクについて考えます。
(参考:日本経済新聞/2020年1月23日)

「パワハラ対策は経営上の課題」82%が重要と認識

2019年4月1日より順次施行が始まった『働き方改革関連法』。働き方改革の実現に向けた具体的な取り組みの一つとして、厚生労働省では「ハラスメント防止対策」を挙げています。

加えて、2019年6月に労働施策総合推進法が公布され、大企業では2020年6月から、中小企業では2022年4月からパワハラの防止措置が義務化されます。

この流れを受けて、厚生労働省が企業の担当者に対して行ったアンケートで「職場のパワーハラスメントの予防・解決のための取組は経営上の課題として重要か」を質問したところ、回答企業全体の82%が「重要」と回答しており、取組の重要性に対する認識の高さがうかがえます。

このようなパワハラ対策が重要であるという高い認識の背景には、働き方改革や法令化だけではない「経営リスク」の問題が潜んでいると言えます。

経営リスクとして認識され始めたパワハラ

実際にパワハラが起きてしまった場合に、その影響は被害者や加害者のみにとどまりません。

企業においては、安全配慮義務違反、損害賠償の請求といった民事責任のリスクがあります。加えて、SNSで拡散されることによる信用失墜が発生してしまえば取り返しがつかなくなる大きなリスクもはらんでいます。

芸能事務所の忘年会で、社長が男性従業員の首をつかみ、沸騰する鍋に顔を押し込んだ事件はそのショッキングな動画とともに、悪質なパワハラの事例として記憶されている方は多いのではないでしょうか。

SNSでパワハラの実態を暴露され、それが拡散によって「炎上」すれば企業のイメージダウンにつながります。一度貼られた「ブラック企業」のレッテルを短期に回復させるのは困難で、企業に対する信用は失墜し、離職者の増加・採用活動の低迷・顧客との取引停止・株価暴落といった経営問題につながります。

パワハラはまさに【経営につながる軽視できないリスク】を内包していることになります。

パワハラは初動の対応が重要

2020年6月(大企業)から始まるパワハラ防止措置の義務化の内容の一部について、厚生労働省は下記などを挙げています。

・苦情などに対する相談体制の整備
・社内方針の明確化と周知・啓発
・被害を受けた労働者へのケアや再発防止

加えて、パワハラを経営問題に発展させないための観点からは「初動の対応の重要さ」を挙げたいと考えます。

パワハラが発生してしまった場合には、調査・処分・環境の改善といった流れで対応を進めますが、この対応を誤ると事態の深刻化を招きます。実際に、事後対応のまずさが原因として会社に責任が認められたハラスメントの裁判例は複数あります。

ハラスメントによる信用失墜や経済的損失は、ハラスメントを知ることで、その大半を未然に防止・対処することができるのではないでしょうか。

日本クレアス社会保険労務士法人では、ハラスメント問題に対して正しい理解を深めるとともに実際に起きてしまった場合の対応について解説するセミナー「ハラスメント対策セミナー」を開催します。

実務に応用しやすいように、多くの事例を用いて理解を深めていくセミナーです。ご興味のある方のご参加をお待ちしております。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。