お金のミライ
20年前。街角には、100円玉を握りしめて駄菓子屋に駆け込む子どもたちの姿がたくさんありました。
でも2019年の今、いつしか子どもたちは、電子マネーを片手にコンビニに行くようになりました。“駄菓子屋に子ども”という当たり前の風景が、たった20年ほどで消えてしまうほど社会は早く変化しています。
この20年で、駄菓子はコンビニに変わりました。八百屋は大型スーパーに変わりました。そして今や、そのコンビニや大型スーパーもAmazonなどのネットショップに取って代わられようとしています。
これによって起こった変化は、お店の形態だけの話ではありません。店員さんにおすすめを聞いたり、ときにはちょっとおまけをしてもらったり。そういったエモーショナルな風景が急激に失われているのも、この20年に起こった象徴的な変化です。
そして、今、同じような変化が“お金”にも起ころうとしています。
私の親の世代には、毎月の給与を「給与袋」に入った現金でもらっていた人も少なくないはずです。給与支給日に受け取った給与袋の厚みや重さは、1ヶ月間がんばった結果。きっと、自分を褒めたい気持ちと、給与のありがたみを五感で感じられたことでしょう。
それが、金融システムの進化により、銀行振込が当たり前になると、給与は「通帳の数字」になりました。さらに2018年には、政府が労働基準法の規定を見直し、電子マネーによる給与支払いを行ってもよいという方針を出しました。給与が銀行口座にすら入らなくなり、電子マネーにチャージされることが当たり前になる時代が、もうすぐそこまで来ています。
2019年は、「キャッシュレス元年」と言われます。私たちが使うお金が日に日に電子化されていることを実感している人も少なくないことでしょう。
もちろんそれを否定するつもりはありません。電車やバスに乗るときに運賃を調べて切符を買わなくてもICカードを「ピッ」とかざすだけで乗り降りできるのはとても便利です。私自身も買い物はほぼすべてクレジットカードか電子マネーで、現金を使うことはほとんどありません。
しかし、その便利さを受け取るのと同時に、お金を使うことがどんどん”無意識化”しつつあるのも事実です。
実際、一番最近、ICカードで乗車した電車代がいくらだったのか、答えられる人はどれだけいるでしょうか。
これからますますキャッシュレスが生活に浸透していきます。生活にかかわるお金全般が、ICカードでの電車代と同じような感覚で使われるようになっていくでしょう。
お金は、大きなエネルギーを秘めた存在です。お金の問題ひとつで、他人はおろか、身内であっても人間関係が壊れます。命に関わる事件にまで発展することも多々あります。
そのエネルギーがまとまると、ダイレクトに社会が動きます。現在の貿易戦争も、お金の問題によって起こっている対立です。
一方で、お金は私たちの生活を豊かにもしてくれます。親孝行をするにも、子どもを育てるにも、快適な住まいを得るためにも、お金は必要です。温かいコーヒーでホッとする。そんなささやかな喜びにだって、お金は必要です。お金にはエネルギーがあり、意思があるのです。
私たちが日々行なっている決済の数は、1年間に2,000〜3,000回にものぼると言われています。私たち一人ひとりの未来も、社会の未来も、そうした一つひとつのお金の判断の積み重ねで出来上がっていくのです。
キャッシュレスによって、”お金”というものが目に見えづらくなる時代だからこそ、私たち一人ひとりがお金に対する「意思」を持つことが大切です。お金を使うことがどんどん”無意識化”されていく時代だからこそ、「金融経済教育」が必要だと強く感じています。