中村亨のビジネスEYE

スタートアップの真贋

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近年、メディアで企業が紹介される際に「ベンチャー企業」や「スタートアップ」という言葉を目にすることが多くなってきました。第4次ベンチャーブームとも言われています。

この2つの言葉は、日本ではほぼ同義で使われていますが、本来は根本的にゴールが異なっています。

ベンチャー企業は、市場においてある程度受け入れられると確信が得られた事業を、既存のビジネスモデルをベースに展開し、安定した収益と長期成長を目指すもの。
長期的な成長を目標にバランスの取れた組織とスタッフの成長や無理のない社内プロセスを築いていこうとします。

スタートアップは、イノベーションによる急速な成長を目指し、最終的には、短期間でのエグジット(資金回収)を目的にしています。GoogleやFacebookなどがその代表格です。

日本で市場規模約4,000億円ともいわれるブームを支えるのは、進化した「スタートアップ」の存在に他なりません。

今回のビジネスEYEでは「スタートアップの真贋」と題して、起業新世代を見通してみましょう。
(参考:週刊ダイヤモンド/2019年4月6日号)


(1) スタートアップの進化

ベンチャーブームは、1970年代のキーエンスや日本電産に始まり、ソフトバンクや旅行代理店大手エイチ・アイ・エスが登場した80年代、楽天、サイバーエージェント、ディー・エヌ・エーなどの人気企業が生まれた94年以降と、これまで3度の大きなうねりがありました。

しかしながら、いずれもオイルショック、円高不況、2001年のネットバブル崩壊、ライブドアショックなど、経済の波に翻弄されて消えてしまいました。

第4次ベンチャーブームの兆しがはっきりしたのは、昨年6月のメルカリ上場ではないでしょうか。
日本初のユニコーン(時価総額1,000億円以上の未上場企業)であり、創業から5年で東証マザーズへ上場したことは皆様のご記憶にも新しいことと思います。
「ジャパニーズ・ドリーム」ともいわれ、さらなるユニコーン予備軍の勃興が期待されています。

この期待感の高まりは、カネ・ヒト・マインドの変化によるものと好意的に捉えられており、第4次ベンチャーブームと1~3次が決定的に異なる点と言えます。

◆カネ
ベンチャーキャピタル(ベンチャーへの投資を専業とする企業)だけでなく、既存事業に閉塞感のある大企業が積極投資を開始。
ベンチャーキャピタルは金銭的なリターンを目的とするが、大企業は、AIやシェアリングエコノミーなど新たな分野での事業シナジーが狙い。

◆ヒト
起業することそのものを支援する、個人の「エンジェル投資家」が急増。
一度成功した起業家が、新世代へバトンを渡すケースはまさにエコシステムである。
前出のサイバーエージェント、ディー・エヌ・エー出身者が多数起業するなど、起業家が生まれる土壌が豊かになってきている。

◆マインド
社会的に「ベンチャーマインド」への理解が深まり、有名大学出身者がスタートアップに参加し始めている。
儲けようという野心よりも、起業の社会的意義を見出して、世の中の課題解決に貢献しようというモチベーションを持つ人が増えているという。
合わせて、学生や若者ばかりが起業するというイメージはもはや古く、大企業との協業が増えたことにより、40歳前後の中年層もスキルを活かせるフィールドになりつつある。


(2) ブームから定着へ

もちろん景気の波に左右される傾向は否定できませんが、荒波を乗り越えた企業が成熟することで始まったこのブームは、新たな世代の起業家を生み、進化を遂げてきたという強みもあります。
決して未来は暗くないといえるでしょう。

さらに言えば、この4月から施行された働き方改革法。
タイムラグがあるとはいえ、規模の小さいスタートアップにも規制の網は待ち構えています。
成長重視ではあるものの、長時間労働が当たり前では「ヒト」も集まらず、「マインド」も育ちません。
生産性を上げる具体策を実行して、さらに新しいスタートアップの姿を築き上げることができれば、真のスタートアップとして定着することも可能となるでしょう。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。