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正電子帳簿保存法:実務上のよくあるご質問と回答について

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「改正電子帳簿保存法」が2022年1月1日から施行され、電子取引(メールやWebで受領した請求書・領収書など)は電子帳簿保存法に対応した電子保存が原則義務化されます。つまり電子取引に関して紙保存が認められなくなりますが、実際には改正内容を正しく理解していない納税者が多く、実務上の対応が間に合っていないというのが現状のようです。 
 
上記の改正について、「2年間の猶予期間を設ける」と2021年12月10日に与党の令和4年度税制改正大綱にて発表されました。
これは電子帳簿保存法の改正による電子データ保存義務化の改正の発表から施行日までの準備期間が短かったことが理由と思われますが、いずれにせよ改正電子帳簿保存法が施行されることに変わりありませんので、内容を理解し、実務対応のポイントを押さえておくことが肝要です。

経理書類には①国税関係帳簿、②国税関係書類、③電子取引、大きく3つの区分があります。電子データの保存が義務となるのは「③電子取引」で、特に多くの質問を頂戴しています。代表的なものを以下にご紹介します。

1.電子取引(データの保存方法・検索要件)

妻と2人で事業を営んでいる個人事業主です。取引の相手方から電子メールにPDFの請求書が添付されて送付されてきました。一般的なパソコンを使用しており、プリンタも持っていますが、特別な請求書等保存ソフトは使用していません。どのように電子データ(PDF)を保存しておけばよいですか。

【回答】
以下のような方法で保存すれば要件を満たしていることとなります。①請求書データ(PDF)のファイル名に、規則性をもって内容を表示する
例) 2022年(令和4年)10月31日に株式会社国税商事から受領した110,000円の請求書
  ⇒「20221031_㈱国税商事_110,000」(日付、取引先名、金額のファイル名に変更)
② 「取引の相手先」や「各月」など任意のフォルダに格納して保存する(一定の検索要件を満たす)
③「正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程」を作成し備え付ける

※税務調査の際に、税務職員からダウンロードの求めがあった場合には、上記のデータを提出する。(範囲検索やAND検索ができない場合等)
※判定期間に係る基準期間(通常は2年前)の売上高(非課税売上も含む)が1,000万円以下(小規模事業者)であり、上記のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、①の設定は不要です。

2.電子取引(従業員が受領した電子データの保存)

従業員が会社の経費等を立て替えた場合において、その従業員が支払先から領収書を電子データで受領した行為は、会社としての電子取引に該当しますか。該当するとした場合には、どのように保存すればよいのでしょうか。

【回答】
従業員が購入先から電子データにより領収書を受領する行為についても、その行為が会社の行為として行われる場合には、会社としての電子取引に該当します。

そのため、取引情報に係る電磁的記録については、従業員から集約し、会社として取りまとめて保存し管理することが望ましいですが、一定の間、従業員のパソコンやスマートフォン等に保存しつつ、会社としても日付、金額、取引先の検索条件に紐づく形でその保存状況を管理しておくことも認められます。

なお、この場合においても、税務調査の際には、その従業員が保存する電磁的記録について、税務職員の求めに応じて提出する等の対応ができるような体制を整えておく必要があります。
電子データを検索して表示するときは、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力することができるように管理しておく必要があります。

3.電子取引(税目による取扱いの違い)

電子取引における所得税・法人税と消費税法で取扱いに違いはありますか?

【回答】
所得税と法人税に係る保存義務者については、電子取引記録を書面に印刷して保存することは認められませんが、消費税については書面に出力して保存することも認められており、令和5年10月以降の電子インボイスの受領に関しても同様です。

なお、仕入税額控除の要件は書面による保存が原則ですが、電子取引による受領は書面交付のない「やむを得ない理由」に該当するため容認されることになります。
つまり、所得税・法人税と消費税法においては電子データと紙の両方の保存の必要はなく、電子データでの保存のみで問題ないことになります。

4.電子保存(対応できなかった場合のペナルティ)

電子取引において、これまでのやり方通り全て書面で印刷保存すると、保存要件を満たせませんが、その場合どのようなペナルティがあるのでしょうか。

【回答】
災害等による事情がなく、その電子取引が保存要件に従って保存されていない場合は、最悪のケースでは青色申告の承認の取り消し対象となり得ます。

なお、承認の取り消しについては、違反の程度等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるか等を検討したうえで(弾力的に)判断します。(青色申告の承認の取り消しについて(事務運営指針)などを参照)また、その申告内容の適正性については、税務調査において、納税者からの追加的な説明や提出資料等を総合勘案して確認することとなります。

11月に国税庁は以下のように公表しています。
「電子データを電子保存せずに書面を保存していた場合には、その取引が正しく記帳されて申告にも反映されており、保存すべき取引情報の内容が書面を含む電子データ以外から確認できるような場合には、それ以外の特段の事由がないにも関わらず、直ちに青色申告の承認が取り消されたり、金銭の支出がなかったものと判断されたりするものではありません。」

電子取引データ保存の不備は直ちに青色取消にはなりませんが、保存要件をしっかり理解し社内の対応を進めることは重要です。

さらに、冒頭でご説明した通り、12月10に発表された与党税制改正大綱において、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間、電子取引の電子データでの保存ができなかったことについてやむを得ない事情があり、かつ税務調査等で税務職員の出力書面(紙媒体)の提出の求めに応じることができるようにしている場合は紙保存を認めることが発表されました。こちらは電子データ保存への対応が困難な事業者の実情に配慮したことによるものです。

最後に、国税関係書類の書面(紙)に関するスキャナ保存についてもポイントをご紹介します。

5.スキャナ保存(紙原本の廃棄)

スキャナ保存を適用している場合、国税関係書類の書面(紙)は、スキャナで読み取った後、即時に廃棄しても問題ないでしょうか。

【回答】
令和4年1月1日以後に保存を行う国税関係書類については、スキャナで読み取り、最低限の同等確認(電磁的記録の記録事項と書面の記載事項とを比較し、同等であることを確認
(折れ曲がり等がないかも含む)することをいいます。)を行った後であれば、即時に廃棄して差し支えありません。

(参考・出典)
1.電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問12
2.電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問8
3.電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問4、問21
4.電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問42
5.電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】問3

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。