中村亨のビジネスEYE

不動産の消費税還付スキームに規制-増税のインパクトと今後の対応とは?

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中村 亨の【ビジネスEYE】です。

令和2年4月に施行された消費税法の改正により、賃貸住宅購入時の消費税還付スキームに、大きな規制が入りました。

【居住用不動産の購入時に課税される消費税について、受け取った消費税から支払った消費税として差し引くことを認めない】という改正であり、不動産オーナーにとっては大きな規制となります。

今回のビジネスEYEでは、賃貸住宅の消費税還付の仕組みと、改正を踏まえ今後取るべき対応について、お伝えいたします。

■賃貸住宅の消費税還付とは?

賃貸住宅物件は購入時には消費税を支払うものの、最終消費者である住宅使用を目的とした入居者は消費税を負担しません。

賃貸住宅の消費税還付とは最終消費者ではない不動産オーナーが、払いすぎた消費税を取り戻すことを前提として取られたスキームです。

■消費税還付を受けるには

消費税還付を受ける前提として、消費税の納税義務者(課税事業者)になっていることが必要です。

不動産オーナーが消費税の納税義務者になるためには、自分で納税義務者の申請手続きを行うか、テナントなどへの貸付のように消費税が課税される家賃収入を年間1,000万円以上計上する必要があります。

主として住宅の貸付により賃貸売上を得ている不動産オーナー様は、この課税事業者に該当しないケースが多いです。それは冒頭でお伝えした通り住居使用の家賃には消費税が課税されないからです。

※消費税が課税される賃貸売上には店舗、事務所、駐車場、自動販売機等があります。

■今回の改正内容

【居住用不動産の購入時に課税される消費税について、受け取った消費税から支払った消費税として差し引くことを認めない】という改正となりました。

不動産オーナーが払いすぎた消費税を取り戻す消費税還付スキームに対して今回の改正がどのようなインパクトがあるのか、実際に例を挙げてみてみましょう。

※この改正は令和2年10月1日以降に引渡しを受ける不動産から適用されます。ただし、令和2年3月31日までに契約した場合は、引き渡しが令和2年10月1日以後になっても消費税還付を受けることができます。

■還付金の計算方法

消費税還付の計算方法を簡単にまとめると、駐車場や店舗物件のようにすべての収入に消費税が課税される場合は【受け取った消費税-支払った消費税】で計算されますが、住居のような消費税が課税されない収入がある場合はその割合に応じて計算されます。

□改正前
<例①>
・店舗売上1,000万円(=受け取る消費税1,000万円×10%=100万円)
・建築費2億円の賃貸マンションを建設(支払う消費税2億円×10%=2,000万円)
  ⇒ 還付金額=受け取る消費税-支払う消費税=【▲1,900万円】
 
この例は全ての収入に消費税が課税される為、店舗売上として預かった消費税から建築に掛かった消費税を差し引いた1,900万円が消費税の還付金額となります。
 
<例②>
・ 例①の条件にアパート収入が1,000万円(非課税収入)ある
  ⇒ 課税売上割合=1,000万円÷(1,000万円+1,000万円)=50%
⇒ 還付金額=受け取る消費税-支払う消費税×課税売上割合=【▲900万円】
 
非課税の収入があるだけで課税売上割合が減少してしまうので、それに伴い例①の場合に比べて還付金額が減少します。消費税還付を検討する場合は非課税収入にも気を配る必要があります。

□改正後
上記の例①の場合、
受け取る消費税(100万円)-支払う消費税(0円)=【100万円】の納税が必要

改正前であれば居住用不動産の建築費として支払った消費税2,000万円を控除することが出来ましたが、今回の改正によって、居住用不動産に関する課税仕入れは認められず、結果100万円の納税になってしまいます。

■改正を踏まえた今後の対応

今回の改正は居住用不動産に対しての改正の為、コンビニやファミレスなどの店舗物件、事務所などのテナントビルに関しては引き続き消費税還付のスキームは可能です。

購入や建築をする際は現在の収入内容によって還付金額が左右されますので、ご検討される際は事前の対策が必要となります。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。