中村亨のビジネスEYE

路線価上昇に伴う相続対策

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2019年7月1日、国税庁は令和元年分の路線価(主要な道路に面した1㎡あたりの土地価格)を発表しました。

国土交通省が今年3月に発表した公示価格(1月1日時点の地価)の全国平均は4年連続で上昇しており、公示価格の8割程度を目安とする路線価は、その影響で今年も上昇する結果となりました。
上昇率のトップは沖縄の8.3%、次いで東京の4.9%、宮城4.4%となっています。

国税庁で公表している相続財産の金額構成比率では、約4割を不動産が占めており、路線価の上昇に伴い相続税・贈与税への影響は多大なものであると予想されます。

今回のビジネスEYEでは、路線価上昇に伴う相続対策についてお話ししたいと思います。

土地の評価方法には、冒頭の公示価格(取引価格の90%)の他に3つの評価額があります。

1.取引価格
2.路線価評価額(公示価格の80%)
3.固定資産税評価額(公示価格の70%)

これらは一物四価と呼ばれ不動産評価の算出に利用します。

■路線価が前年比5%増加した場合(都内)

昨年:相続税評価額 40万円×200㎡=8,000万円
            ↓ 
今年:相続税評価額 42万円×200㎡=8,400万円

上記のように路線価が5%(2万円)上昇することで、
相続財産が400万円増加する結果となります。
路線価上昇=デメリットのイメージをお持ちになるかも知れませんが、
取引市場では同時に、公示価格・取引金額も上昇しているケースもあります。
この際に収益性の低い不動産を売却し、資産の組み換えや現金化を図ることは
今後の事業改善、納税対策、承継対策を行う上で有効的な相続対策の一つです。

お客様にご提案した相続対策のうち、路線価上昇に伴い効果が高かったものをご紹介いたします。

■お客様のご要望 
1.賃料は発生しないが相続税評価が高いため、戸建てである自宅の相続税評価を下げたい。
2.自分が高齢になってきたため、車に乗らなくても生活できる都内に住みたい。

現状では諸条件が整っていないため、小規模宅地等の評価減が利用できない状況であり、自宅の相続税評価額が高額のままで、かつ高齢になってきたので、戸建てでは不便であるとお考えでした。
価格査定の結果、現在お住いの戸建ての売却と利便性の高いマンションの購入をご提案しました。

■売却物件の評価額
・相続税評価額 →   1億円 
・売却金額 → 1.5億円(諸経費考慮後の売却後手残り1.1億円) 

■ご提案内容
手残り1.1億円で都内の高層マンションを購入 
・マンション購入価格 → 1.1億円 
・相続税評価額 → 4,000万円(評価減63%)

購入金額が1.1億円のマンションが相続税評価額として63%も圧縮できた要因は、
1.高層マンションの上層階を購入した。
上層階の価格は高額ですが、建物部分の相続税評価はあくまで基礎の部分そのものの価値で評価しますので、時価と相続税評価に乖離が生まれます。
2.世帯数が多いマンションのため土地所有権面積は少量になる。
土地の所有権は建物全体の面積から、所有している占有面積の割合分だけであり、高層マンションの場合には所有している土地部分はごくわずかとなり、この要因からも時価と相続税評価に乖離が生まれます。

以上の要因により、当初のご希望に沿ったご提案を行うことで、値崩れしにくい高層マンションを取得することになり、仮に売却をしても損することなく、かつ相続税評価額も大幅に圧縮できましたので、相続税対策として有効なものとなりました。

このように、公示価格と路線価の上昇に伴い、相続評価額が上昇した場合、所有不動産の組み換えを実施することで相続税の評価減対策が可能です。
今回は戸建てをマンションに組み替える案件でしたが、現在所有している投資用マンションを別の投資用マンションに資産を組み替えることも可能です。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。