人生が変わる お金の大事な話

【Story8】パートナーと知恵やお金を出し合い起業

そのころ僕はインターネットの掲示板――「起業家集まれ」とか「海外でビジネスをしたい人」というサイトをよく見ていた。
その掲示板で知り合った一人の日本人がハワイに住んでいて、現地の日本の会社に勤めていた。彼とのメールでいろいろなビジネスアイデアを出し合っていたときにオーディオの情報を聞き、オーディオのインターネット販売というアイデアがひらめいた。


当時日本では、ホームオーディオの中でも高級オーディオと呼ばれているものは、100万円くらいした。だが、アメリカやョーロッパだと、全く同じ物が30万円から50万円で売られているという。
それほどの価格差があることを僕は知らなかった。
そこで、ハワイに住む彼と「日本への輸入をやろう―」と盛り上がり、高級オーディオのインターネット販売事業を起こしたのだった。
彼は40歳で、「持っていないものはほかから持ってくればいい」という発想をする人だった。それはものに限らず、知識でもそうだ。


彼は、英語を話せるし仕入れもできるし、オーディオの知識もある。だが日本にいないので、ネット通販の顧客からの電話対応はできない。
僕は僕で、オーディオの知識はないし、事業の知識もない。だがホームページを作ることができるし、日本にいるのでネット通販の電話対応もできる。お客さんからの入金の管理や売り上げ管理もこなせる。
それなら、お互いが持てるものを持ち寄って使い合えばいい。
このオーディオのネットショップの設立資金は14万円だった。2人で7万円ずつ出し合った。


資金を何に使ったかといえば、お客さんを集めるためのホームページの制作とシステム開発に10万円くらい使い、あとはもろもろの雑費に消えていった。今から考えても、相当安く作れたと思う。
事務所を構えることも、在庫も、大きなお金も必要なかった。
通常、オーディオショップや小売店というと在庫を持つイメージがあるが、在庫を持つと資金繰りが悪くなって在庫ロスが出る。
だから、とにかく在庫を持たないビジネスをしようと、彼が提案してくれた。<br

僕はそんな発想はちっともなかったし、そもそも「資金繰りが悪くなる」ということ自体、理解できなかったが、ビジネス経験が僕より豊富な彼の言うとおりにした。
ホームページ制作やシステム開発もそうだが、この高級オーディオのインターネット販売も、コストらしいコストのかからない起業、つまりお金がなくても始められるビジネスだった。

知恵を出してお金の入る仕組みを作る

お金のない分、知恵をしぼり出すしかなかった。
高級オーディオのインターネット販売の物流は、このように作った。
まず先に、注文をくれたお客さんからお金を入金してもらい、そのお金を仕入れ代金に回すようにした。
たとえば、50万円のオーディオを買いたい人がいる。そうしたら、先にお客さんから50万円をもらう。仕入れ価格が30万円なら、30万円を海外の「間屋」に送金する。そうすると問屋は指定する倉庫に品物を送ってくれる。そこが、アメリカのロサンゼルスだったら、ロサンゼルスの倉庫に直接、送ってくれる。


僕たちは、アメリカ、ヨーロッパ、日本に拠点を持っている運送会社と提携をしてそこの倉庫を使わせてもらうことにした。そこには月に2回、定期便が来る。そういう便が各拠点にいくつもあるので、指定すれば全部、特定の倉庫に集められる。その倉庫から日本の物流会社の倉庫に送られる。そこから運送会社が直接、日本に住むお客さんに発送してくれるという仕組みだ。
僕は、1回も商品を目にすることはないし、手にすることもない。注文や仕入れなどで使うメールと電話だけで商品とお金が流れている。
しかし、受注した仕事をこなさなければならないので、24時間フル稼働になることもあった。


僕という人間は、カスタマーサポートの仕事をずっとやっていられるかというと、飽きてしまって続けられない。
だが、お金とモノの流れの仕組みをちゃんちゃんと作ってさえおけば、他人に任せても何も問題は起きない。
あとはカスタマーサポートのできる人間と仕入れのできる人間、そして業務全体の管理のできる人間がいれば、そのビジネスが自然と回っていく。


世の中にはお客さんとのメール対応が上手な人、得意な人もいれば、仕入れが得意な人もいる。そういう好きな分野や得意分野をもっている人を探して任せることにした。
求人もインターネットの掲示板で行うことにした。
そして僕は、自分の力を次の仕組み作りに注ぎ込んだ。



ひとり占めよりもノウハウを分け合う

当時、僕はただ必死にやっていただけだが、実はこういう仕組みを考えて作るのが好きなことに、あとになって気づいた。これも、僕という人間に自信を与えてくれ、独立を勧めてくれた星さんのおかげだと思っている。
こうして、ようやく少しは「お金の入る仕組み」の作り方みたいなものがわかってきた。
また、そういう流れを作っていく中で、ビジネスの資金繰り、キャッシュフローという考え方の重要さを、パートナーから教えられた。


そのころの僕はまだお金についての知識や会計についての知識はなく、ただその重要性をなんとなく感じていた。
高級オーディオのインターネット販売の売り上げは順調に伸び、1年で売上高1億円に成長し、軌道に乗せることができた。
このとき27歳。年収は1000万円になっていた。
何でもそうだが、一人ですればひとり占めできるかもしれない。けれども、それではビジネスの世界は広がらない。誰かとパートナーを組んで、お互いのノウハウや知識を使い合えば、1のものが2でなく3や4になる。


人生において、人はなかなかひとりでは生きていけない。ビジネスにおいても同じなのだ。支え合うパートナーがいてこそ広がる。
そういう発想を、僕はこのときのパートナーから教えてもらったのだ。
彼はアイデアが豊かというか、常識の範囲外の発想をする人で、いま、思うとちょっとほかの経営者とは違っていた。評論家タイプではなく、自分でもビジネスに参加する事業家タイプの人間だった。


現在、僕の経営しているIT関連の会社やファイナンシャル教育を行う会社にも、それぞれにパートナーがいる。いろんな人の力を借りて、自分でできる以上の成果を生み出したいという発想があるからだ。