いいリターンを得るために
これまで僕は、お金も学歴も経験もないというコンプレツクスをどうにか乗り越えてきた。
それができたのも、メンター(優れた助言者)ともいうべき星さんとの出会いがあったからだ。
僕は、お金持ちの人は「お金の入る仕組み」を持っているのだという星さんの言葉に刺激され、その仕組みを作ることに知恵をしぼってきた。僕自身に足りないところは、星さんや、ビジネスパートナー、スタッフたちに補ってもらった。
「自分のビジネスを持っていれば、好きなときに好きなことができる。その代わり、リスクもリターンもやったことのすべては自分に返ってくる。そこが重要なんだ。だからいいリターンを得るにはまず、お金についての知識を学ぶべきだし、生きたお金の使い方をよく考えてみることだよ」
ITベンチャーのビジネスを経て、そこそこの蓄えができたとき、星さんからこんなことを言われた。
僕は以前、20万円が入ってきたら25万円を使ってしまうような生活をしていた。
お金がないのに毎月4万円の車のローンや15万円のサーフボードなんかをローンを組んで買ったりしていた。「欲しいもの」と「必要なもの」の区別ができていなかったのだ。そしていつも親にお金を借りたりして迷惑をかけていた。
金銭感覚がないに等しい。お金に関しての知識の乏しさは、本当に自分でもあきれるほどだ。
家計簿をつけたこともないし、自分が毎月いくら使ったかも把握していない。当然、自分でビジネスを始めてからも決算書の読み方も知らない。キャッシュフローという言葉も、その意味も知らなかった。
僕は、つくづく自分にファイナンシャル教育が欠けていることを認識した。会計や金融の知識を身につけなければ、これ以上の成功を手にすることはできないと感じた。
〈本格的にビジネスや投資をするなら、簿記や会計などの専門的な知識を身につけるしかないのかも……〉
独学しようかとも思ったが、内容の浅いものになってしまうかもしれない。それでは役に立たないし、時間ばかりかかってしまう。美容室のオーナーに何度も言われていたように、「時間コスト」という言葉が頭によぎった。
〈よし、きっちりと知識を身につけてやるぞ―〉
僕は意気込んで、簿記の専門学校に通った。
かつて言われた星さんの言葉を思い出したからだ。
「生半可な知識からは知恵は生まれない。自分に都合のいいようにしか解釈しないからね」
でも結局僕は、簿記の授業の半分も理解できず、会計の知識を飲み込むには至らなかった。正直にいえば、ちんぷんかんぷんだった。
本当に成功している人の生の声を聞きたい
それに簿記の学校で受ける授業は、僕が本当に学びたいこととは違っていた。僕は、もっと実践的な「お金の勉強」ができる機関に行きたかったのだ。
当時、お金関係の勉強ができるところはあるにはあった。でも、証券会社が行う「今週のお薦め銘柄はこれです」とか「誰々さんはこうして億万長者になった」といった類の無料セミナーだった。
そういうセミナーで語られるのは当の本人の成功談ではない。
経済評論家なり株式アドバイザーが、セミナーを開催した会社からお金をもらって話している。だから、結局は会社の商品を買ってもらうためにする話だ。
そんなのはただの営業トークだ。
僕は、そういう話を聞いてもムダだと思ったし、聞きたくもなかった。
本当に成功している人、本当にお金持ちになった人のお金についての知識、生きたお金の使い方などを「生の声」で聞きたかった。
でも、起業家をめざす人のためのセミナーや企業研修セミナーというのはあっても、一個人がお金を払って、実際にお金持ちになった成功者の話を聞きに行くという、有料セミナーはほとんどない。
本当に、起業や投資で成功した本人の生の話を聞けるセミナーというものはなかった。
〈成功者の話を聞いてみたい―〉
きっと知識もノウハウも、実際に培った人に学ぶのが一番確実で早いはずだ。
僕と同じように考える人間は、必ずたくさんいるはずだ。
〈そうだ、お金について問題意識のある人たちを対象にビジネスを始めよう。本当に成功した人たちを講師に呼んで、自分も一緒にファイナンスについて学んでいこう―〉
こうして、お金に無知な自分を見つめ直すため、自己投資を兼ねてファイナンシャル教育の会社を立ち上げることにした。資金にはこれまでに貯めた300万円を使った。
2002年、27歳のときだ。
僕は、かつての星さんの言葉を思い出した。
「お金のために働くのではなく、学ぶために働くという姿勢が大事なんだ」
僕が会社を始めることを知った星さんは、こう言って応援してくれた。
「自己投資は一番効率のいい投資先だよ。何をするよりもまず自分に投資すること、勉強すること、学ぶことに投資したほうがリターンは間違いなく一番高いものになる。
学ぶことと働くことを同時にやろうなんて泉くんらしいね。生きたお金の使い方の一つだと思うよ」
こうして僕は、日本ファイナンシャルアカデミー(以下、ファイナンシャルアカデミー)を設立し、会員を集めてセミナーやスクールを開催して自らもそこで学んだ。
学びながら実際にファイナンシャルアカデミーの会計にも携わることで、あれほどちんぷんかんぷんだった決算書の読み方や、キャッシュフローの意味などがわかりだ
した。
経験することで、金融の知識を飲み込めるようになったのだ。
投資に必要なお金の知識
僕は、たとえばこんなセミナーを始めた。
株で1億円を稼いだ人がいたとする。その人に会いに行き、
「うちではあなたのように成功した方のセミナーを開催しています。あなたの話を聞きたい人が大勢いるのでぜひ講演をしていただけませんか」
と依頼をして回った。承諾を得れば、何月何日何時からセミナーを開催ということで、会場を押さえる。
証券会社のような無料セミナーのやり方ではバックが見えてしまう。主催者側の何をしたいかという目的や営業したい意図が見えてしまう。そのため、受講者たちは話を素直に聞けないことが多いだろう。
その点、ファイナンシャルアカデミーのセミナーは有料でも、ほかに何かを買ってほしいといった意図はない。ファンドとか不動産を売り込むのが目当てではない。聞き手の欲しい情報―― いかに生きたお金の使い方をするか、いかに相手にだまされないか、いかにいい考え方を持つか、投資に必要なお金についての知識を授けることが目的なのだ。
もともと僕自身が学びたかったのだから、講師選びには力が入った。
また聞きやどこかで見てきたような話をする評論家たちではなく、本当のお金持ち、実際に投資をして稼いだ人、自力で起業して成功した人――実際に成功していてファイナンシャルリテラシー(お金の知性)の高い人たちを探しだしてアプローチした。
そういう人たちの「生の声」を聞くことが、本当の勉強になると思ったからだ。
星さんはこう言ってくれた。
「こんなことができたらいいな、と思うことが大事で、それが人間の進歩になる」
いまでは講演をしてくれた方からの紹介があったり、逆に講演者から出させてほしいという依頼も来たりする。ただ、立ち上げ当初は10人に当たっても半分以上の人に断られていた。
実際に株で成功している人とか、本当のお金持ちというのは、なかなか表に出て来たがらないのだ。
しかし、成功者に会える楽しみもあったので、僕は断られても苦にならず、いろんな人にお会いすることができた。
当初は仕事というより、ただ僕自身が素直に話を聞きたい、会いたいと思う人のところへ行っていた。そして、みんなにも話を聞かせてくださいと頼み込んだ。ほとんどが投資やビジネスで成功している人たちだ。
セミナーの集客には、ネットでの告知を利用した。今では同じようなセミナーの主催が多くなったが、当初はネットで告知するだけでも多くの人たちが足を運んでくれた。
結果、当初からセミナー事業は盛況で、1年もしないうちにフアイナンシャルアカデミーを軌道に乗せることができた。
28歳で年収は1500万円になっていた。
まるで知らない間にお金がついてきたような感覚だ。
そのことを告げると、星さんはこう言った。
「人のためになるサービスを提供していたら、自然とお金はついてくるものだよ。サービスとは『他利』で、『自利』は自分の利益のことだろう。他利を考えている人は成功する。逆に、相手から奪うことばかり考えている自利的な人間は成功しないよ」
報酬額とは相手に与えるサービスの質と量によつて決まるのだ。
お金についての知識と投資の方法を学んだ僕は、今度は不動産投資を始めた(それについてはあとの章で詳しく述べる)。
いまから振り返ってみると、中学を卒業してから27歳までお金に苦労しつづけてきたが、ようやく報われたという気持ちでいる。
ビジネスに成功しようとすればするほど、人生で最もつらい試練期間や貧乏時代があるのかもしれない。失敗や失意はつきもので、そこから再生して初めて成功を手にできるのだろう。