ニッポンの賃金
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先日「『頭脳』買い負ける日本 IT人材報酬、海外と差」というテーマを目にしました。
AI導入ややRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション=ロボットによる業務自動化)が様々な分野で広がり、優秀なIT人材の確保が企業の競争力を左右する昨今。
若手の人材が、賃金格差を理由にGoogleやAmazonなど「GAFA」と呼ばれる米IT大手4社に流出してしまう。
こんな悩みを抱える日本のIT企業が増えています。
また、IT人材だけでなく、日本全体の賃金が世界でも大きく取り残されており、経済の低迷が続く原因とも考えられます。
今回のビジネスEYEでは、「ニッポンの賃金」を見通してみましょう。
(参考:日本経済新聞/2019年3月21日)
(1) 日本の賃金は高くない
日本の最低賃金は、経済協力開発機構(OECD)36ケ国中11位と決して高い順位ではありません。
残業代を含めた民間部門の総収入について時給で計算した場合、1997年からの20年間で、日本は9%も下落したとの結果が出ていました。
デフレと不況と円高、過剰な設備と人ーー
金融危機に直面して以降、賃下げを含めた賃金抑制が続いた経緯があると言えるでしょう。
2016年以降の3年間では、最低賃金が年3%の上げ幅で上昇しているものの、国は2020年代前半までに最低賃金を1,000円にするという目標を掲げ躍起になっています。
アベノミクスでは、最低賃金が引き上げられると、雇用者報酬が増え、それが消費を刺激することによって、結果的に経済全体が活性化されるーー
そんな想定をしているからです。
実際には、税制上の「103万円(あるいは130万円)の壁」や、中小企業の経営を圧迫する賃上げによって人手不足となり、経済全体のバランスを失ってしまう可能性も否定できません。
(2) 賃金上昇を可能にするには
賃金上昇による経済活性化を実現するには、弊グループのビジネス情報誌『ANGLE-アングル-』3月号でも取り上げましたが、企業独自で生産性を高める努力をせざるを得ません。
ここで、生産性を高めるために高付加価値を実現した例を見てみましょう。
昨年12月に税込102万円の最高級音楽プレイヤーを発売したことで話題となったSONYです。
SONYは2013年からマニアをも唸らせるプレイヤーの開発に着手しました。
実際の演奏に近い音質は、現存する製品の中でも最高レベルとされ、100万円でも高くないという称賛の声とともに売れ行きは好調だといいます。
合わせて、一般消費者向けにも高付加価値化を追求していることも特徴的です。
2016年以降、iPhoneのニューモデル発売によりワイヤレスヘッドホン/イヤホンの需要が拡大しました。
マニア向けに開発した音質を再現し、4万円のヘッドホンを売り出して、こちらも好調。
オーディオ機器に強いというブランドイメージ向上と合わせて、購入単価も上昇し、その効果はテレビ事業まで波及しました。
SONYの有機ELテレビは、他社の価格よりも2割以上高額にもかかわらず、それでも国内シェアは4割超と圧倒的な地位を築いています。
2014年まで累計8,000億円の赤字を出していたテレビ事業は、現在では黒字に転じています。
安売りをせず、付加価値を上げる発想を持つとなると、並大抵の覚悟では難しいでしょう。
数を追わずに購入単価を上げる戦略を立てる勇気が、賃金上昇を実現する一つの可能性なのかもしれません。