中村亨のビジネスEYE

特例期間の提出期限迫る「事業承継税制」活用のポイント

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平成30年度に大きく改正された事業承継税制の特例承認計画の提出が、令和5年3月31日までと残り2年を切りました。

事業承継にお悩みの中小企業の社長様にとっては、事業承継税制を利用するのかどうか、最終的な判断が必要となってまいります。

今回のビジネスEYEでは、改正で活用しやすくなった事業承継税制についてご紹介します。

■事業承継税制とは

後継者が中小企業の株式を相続または贈与で引き継いだときに、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税を猶予する制度をいいます。

■平成30年の改正内容

事業承継税制は平成21年に創設された制度ですが、適用要件など使い勝手が悪く利用する経営者はほとんどいらっしゃいませんでした。そこを改善すべく平成30年には大きく以下の4つの改正が行われました。

【1】贈与税・相続税が100%猶予・免除

(改正前)
従来の税制では、納税猶予対象となる株式数・猶予割合の2点に制限がありました。
・対象となる株式の上限が3分の2まで。
・贈与税は100%免除されるが、相続税は80%までしか免除されない。

(改正後)
全ての株式が対象になる事に加えて、贈与税、相続税がともに100%免除されるようになり、実質納税負担なしに事業承継が可能となります。

【2】雇用条件の見直し

(改正前)
この税制を利用した後5年間の雇用を、平均で8割以上に保つ必要がありました。従業員数の少ない小規模事業者や業績不振に陥り雇用整理をきめた法人も、この制限を守れなかった場合は猶予された贈与税、相続税を支払う必要がありました。

(改正後)
雇用平均に関する継続条件は実質的に撤廃され、税制適用中に5年間平均で8割以上の雇用を維持できなかった場合でも、都道府県に報告書を提出することを条件に納税猶予を受け続けることが出来ます。

【3】経営環境変化に対応した減免制度

(改正前)
後継者が自主廃業や事業譲渡を行うとその時点で納税猶予が終了します。
この制度の問題点は経営環境の変化により事業継続が困難な場合でも、承継時の株価を基に贈与税・相続税が一律で猶予額全額に課税される点にありました。

(改正後)
事業承継時と売却・廃業時の株価に差が生じている際は、その差額分を減免してくれます。
経営悪化によって株価が下落した際は、下がった分だけ税金の支払いが免除され後継者の負担が軽くなりました。

【4】複数の後継者による対象者の制限緩和

(改正前)
経営者1人に対して後継者1人への事業承継が対象となっていました。

(改正後)
後継者が最大で3人まで対象になり、また現経営者以外の株式もまとめて承継させることが可能になりました。価値観や企業経営の実情が大きく変わった現代、子1人に承継させるという常識は崩れつつあります。今回の法改正で、兄弟姉妹で力を合わせて会社経営を続けてほしいと願うオーナーの実情にも沿うようになりました。

■事業承継税制のメリット

まずは事業承継税制のメリットを見ていきます。

【メリット1】相続税、贈与税を節税できる

事業承継税制の最大のメリットは相続税・贈与税の納税が猶予され、通常通りに相続や贈与を行った時よりも大幅に相続税・贈与税の資金繰りが楽になる点です。

(例:評価額3,000万円の株式を後継者に贈与した場合)
通常3,000万円に対する贈与税は、
3,000万円-110万円=2,890万円
2,890万円×45%-265万円=約1,036万円

3,000万円の財産を贈与した場合には、約1,036万円の贈与税が発生致します。現金に換金する事の難しい非上場株式の贈与を受けた後継者にとっては、多額の納税負担となります。

事業承継税制を活用し一定の要件を守る事によってこの贈与税を負担することなく、株式の承継が可能となり税金も猶予されます。

【メリット2】会社の将来や相続を専門家と考える機会ができる

事業承継税制を適用するには、どのタイミングで特例承継計画を提出するか、贈与はいつ誰に行うかなど、すべて計画した上で実行する必要があるため、税理士など専門家のサポートは不可欠です。

専門家の手を借りるべき手続きであることは、経営者にとっては負担がありますが、その反面、経験豊富な専門家に出会えれば、思いつかなかったような事業承継の方法や、その後の相続対策について有利な方法を提案してもらえます。

事業承継税制を検討すれば、会社の将来やご自身の相続に関して、専門家と考える機会ができます。また、後継者からすればご自身から切り出せない話をする機会もできるのではないでしょうか。

■事業承継税制のデメリット

次に事業承継税制のデメリットです。

【デメリット1】猶予期間が長期間

納税猶予を適用し始めてから納税免除となるまで、非常に長期間となります。予めこうした長期の制度であることは覚悟しておきましょう。

【デメリット2】手続きが複雑

事業承継税制は、都道府県の「認定」をベースに、税務署からの納税猶予の適用判断が行われるという構造です。

このことから、適用を受けるまでは双方に必要な書類を提出し要件をクリアしなければならず、さらに納税猶予の適用開始後も2つの行政機関に対して届出や報告が必要になるなど、非常にわかりづらい手続きが続きます。

【デメリット3】納税額が増えることも

納税猶予額には利子税が発生します。この利子税は、たとえば経営承継期間内に、納税猶予を受けた非上場株式を譲渡するなどして納税猶予が受けられなくなると、本来支払うべき税額に上乗せされて徴収されます。

万が一、免除の時まで納税猶予が受けられなくなった場合は、かえって高額な税負担となる場合もあるということです。

■事業承継を円滑に進めるポイント

事業承継税制は、非常に複雑な制度ですが、中小企業には欠かせない税制です。この制度に適した法人を判断するには細かなヒアリングと現状確認が必要になってきます。

そのため、早めの計画と良い専門家を選ぶことが、事業承継を円滑に進めるポイントです。特例期間の提出期限が迫る中、この機会に本制度の活用や事業承継について一度ご検討されてみてはいかがでしょうか。

日本クレアス税理士法人は認定経営革新等支援機関の認定を受けており、個人の相続や法人の事業承継の実績が数多くあります。
事業承継に関するお悩み事はぜひご相談ください。

<お問合せ先>
日本クレアス税理士法人
電話:03-3593-3236
お問い合わせフォーム:https://j-creas.com/contact/

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。