退職に係る所得税増税について(短期の勤務年数)-令和3年度税制改正
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新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、雇用環境が厳しくなっている業界や企業が増えています。2021年中の希望退職を募集した上場企業が50社に達したと、東京商工リサーチの集計で分かりました。非公表の企業もあるため、実数は更に多いとみられています。
早期退職などで退職金を支給する企業が増える傾向の中、令和3年度の税制改正で短期の勤務年数の者に支給される退職金に係る所得税が増税されることになりました。今回のビジネスEYEでは、具体的な退職所得課税の仕組みと、税制改正の論点を見ていきます。
退職金課税の仕組みと今回の税制改正
退職金に係る所得税の仕組みについてですが、勤続年数に応じて計算される退職所得控除額も認められている上、その控除後の金額の1/2が原則として課税対象となります。また、分離課税という有利な課税制度を選択することができるため、所得税の納税負担は大幅に抑えられています。
平成24年度の改正において、勤続年数が5年以下の役員退職金については、上述の1/2課税を適用させない規定を定めています。当時のキャリア官僚の天下りなどの特権階級の優遇を認めないという背景からの改正でした。
平成24年度の改正において、勤続年数が5年以下の役員退職金については、上述の1/2課税を適用させない規定を定めています。当時のキャリア官僚の天下りなどの特権階級の優遇を認めないという背景からの改正でした。
令和3年度の税制改正点は下記の図表の通りです
改正箇所は、従業員でも勤続年数が5年以下の場合は、課税標準が300万円を超える部分は「2分の1」課税が適用できなくなる⇒全額課税となる点になります。
※1 300万円は、退職収入から退職所得控除額を控除した後の金額
具体的な金額を用いて今回の改正による退職所得金額の差額を見ていきます。
改正前後の具体例
勤続年数3年の従業員に900万円の退職金を支給 (※退職所得控除額:40万円×3年=120万円)
(改正前の退職所得金額):(900万円-120万円)×1/2=390万円
(改正後の退職所得金額: 900万円-120万円=780万円
┗ ①300万円超の金額: (780万円-300万円)=480万円
┗ ②300万円までの金額: 300万円×1/2=150万円
┗ ③ ①+②=630万円
改正前に比べて、課税対象となる金額は240万円(630万円-390万円)の増額となります。
改正の目的は「制度の歪みの補正」?
今回の改正点である「5年以下」という短い勤務年数の従業員に300万円を超える退職金支給は、実務上対象となるケースは少ないのではないかと思われます。
その上で改正が行われた目的は、外資系企業のような完全実力主義の従業員が、月給を抑える分の上乗せとして退職金を受け取ることで租税回避ができる、その行為を防ぐ「制度の歪みの補正」だと言われています。
退職金の税制優遇にまつわるその他の問題点
また一方で今回の改正には盛り込まれませんでしたが、退職金の税制優遇が人材の流動化を妨げているという問題が残っていると言われています。
これは、勤続年数に応じて計算される退職所得控除額が、勤続20年を超えると1年あたり70万円ずつ増額するという税制優遇により、旧態依然とした終身雇用を助長し、新しい仕事にチャレンジする社員のモチベーション低下を招いてしまっていることが懸念されています。
今後の税制改正で退職所得控除額の見直しも行われる可能性がある点について申し添えておきます。
【補足:退職所得がある場合の基礎控除額算定等の注意点】
令和2年度の所得税の改正により、退職所得が発生している場合には、確定申告をする/しないにかかわらず、その退職所得金額を「合計所得金額」に加算することになりました。
この「合計所得金額」は基礎控除や配偶者特別控除の算定、公的年金の控除額の算定にも影響してくることになります。具体的には次の通りとなります。
合計所得金額
次の(1)と(2)の合計額に、退職所得金額、山林所得金額を加算した金額です。
※申告分離課税の所得がある場合には、それらの所得金額(長(短)期譲渡所得については特別控除前の金額)の合計金額を加算した金額です。
(1)事業所得、不動産所得、給与所得、綜合課税の利子所得・配当所得・短期譲渡所得及び雑所得の合計額(損益通算後の金額)
(2)綜合課税の長期譲渡所得と一時所得の合計額(損益通算後の金額)の2分の1の金額。ただし、「総所得金額等」で掲げた繰越控除を受けている場合には、その適用前の金額をいいます。
国税庁「令和2年分 所得税及び復興特別所得税の確定申告の手引き」
※退職所得金額は確定申告が不要な場合でも計算に当たって加算する必要があります。