中村亨のビジネスEYE

経済産業省「中小M&Aガイドライン」の発表

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日本全体において、令和7年までに平均引退年齢である70歳を超える中小企業の経営者は約245万人のうち、約半数の127万人が後継者未定と見込まれています。

経済産業省はこのような現状を踏まえ、経営者の高齢化が進む要因の1つである後継者問題の対策として、平成27年3月に策定した「事業引継ぎガイドライン」を、本年3月に全面改訂した「中小M&Aガイドライン」を策定しました。

中小企業におけるM&Aが円滑に促進されるためには、M&Aの仲介業者や金融機関などのM&A支援機関が、適切に支援を実施することが重要であることから、中小企業に対しては事例や進め方、留意点、手数料の目安を示し、M&A業者等に対しては行動指針を提示しています。

今回のビジネスEYEでは、本ガイドラインの中から中小企業がM&Aを検討する際に必要な手引きをサマリーにしてご紹介します。

参考:経済産業省/中小M&Aガイドライン‐第三者への円滑な事業引継ぎに向けて‐
 

後継者不在の中小企業向けの手引き

■ M&Aへの意識や意義の変化

●「後ろめたい」から「誇らしい」へ
中小企業のM&Aに対するイメージは、譲り渡し側は「後ろめたい」「従業員に申し訳ない」、譲り受け側は「敵対的買収」といった従来否定的なイメージがありましたが、徐々にその認識も変わり、肯定的に受け入れられる感覚が浸透しています。

中小企業のM&Aは、経営者が長い時間をかけて築き上げた事業の価値が改めて評価され初めて実現することであり、むしろ「誇らしい」という認識へと変化しています。

●従業員・取引先等への影響の緩和もM&Aの意義
譲り渡し側は、M&Aによって事業を社外の第三者に譲り渡して存続させることで、従業員の雇用を守ることができ、取引先との関係を継続させることができれば、地域のサプライチェーン維持にも貢献でき、M&Aの実施には意義があります。

●事業の隠れた魅力の再発見
譲り受け側が評価するのは、事業の収支・財務の状況、事業規模や保有不動産といった要素に限らず、技術力や優良な取引先との人脈・商流、知的財産やノウハウ、地域や業界内における知名度や信用といった無数の要素にのぼります。

譲り渡し経営者が気づいていなかったような事業の価値を譲り受け側が高く評価し、中小企業のM&Aの成約に至るケースもあります。

「自社の事業を譲り受けてくれるような第三者はいないだろう」と検討を避けるのではなく、譲り渡し側経営者にとって自明であるが故に気づきにくい魅力を発掘するという意味でも、支援機関へ相談することが望まれます。

■ 譲り渡し側にとっての留意点

●早期判断の重要性
通常、希望する譲り受け側とのマッチングには、数カ月~1年程度の時間を要します。決断が遅れるほど中小企業のM&Aの選択肢は狭まる傾向にあり、また特に業績が良くない場合には資金繰りが尽きてしまうため、早期の判断が求められます。

●秘密保持の徹底
M&Aに関する手続の全般にわたり、秘密を厳守し情報の漏えいを防ぐことは極めて重要です。取引先や従業員に意図せず情報が伝わってしまうことを発端にトラブルに発展し、M&Aがとん挫してしまうケースも見られます。

複数の支援機関に相談してマッチング支援を試みる場合にも、譲り渡し側に関する情報が必要以上に外部に流出する恐れがあり、注意が必要です。

■ 中小企業のM&Aの進め方

●譲り渡し側経営者が先ず行うべきは「支援機関への相談」
譲り渡し側経営者は日々の業務への対処当が優先してしまい、なかなか検討が進まないことが多くあります。また、専門的な知見がなければ誤った判断を行う恐れがあります。

そのため、譲り渡し側経営者は身近な支援機関への相談をまずは行うべきです。具体的には、商工団体、士業等専門家(公認会計士・税理士・中小企業診断士・弁護士等)、金融機関、M&A専門業者、事業引継ぎ支援センターといった公的機関です。

●意思決定が進んでいないからこそ相談することが必要
先に述べた「事業の魅力の再発見」「早期判断の重要性」からも、意思決定が進んでいない段階でも早期に相談を始めることが必要です。支援機関も課題への対応策や解決方法等を早期に検討しやすくなり、円滑なM&Aための一助になります。

●中小企業のM&Aのフロー
一般的には下記の流れによって進むことが多くあります。
1.支援機関に相談
2.意思決定
3.仲介者・FAを選定する/選定しない
4.バリュエーション(企業価値評価・事業価値評価)
5.譲り受け側の選定(マッチング)
6.交渉
7.基本合意の締結
8.デューデリジェンス
9.最終契約の締結
10.クロージング
11.クロージング後(ポストM&A)

●仲介契約・FA契約の内容の主なポイント
小規模なM&Aについては、FA(ファイナンシャルアドバイザー)よりも仲介者の方が多く用いられる傾向にありますが、業務形態により留意すべき事項が異なるため注意が必要です。

<仲介者の特徴>
・譲り渡し側・譲り受け側の双方の事業内容が分かるため、両当事者の意思疎通が容易となり、中小企業のM&A実行に向けて円滑な手続きが期待できる
<FAの特徴>
・一方当事者のみと契約を締結しており、契約者の利益に忠実な助言・指導等を期待しやすい

その他、ガイドラインでは「手数料についての考え方」や、事例に基づいた手数料の計算など、中小企業のM&Aを適切な形で進めるために必要な情報が網羅されています。ぜひご参考ください。

経済産業省|中小M&Aガイドライン(PDF)
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001-2.pdf

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。