中村亨のビジネスEYE

介護サービス業界のM&A拡大

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介護を軸にしたM&A(合併・買収)が増えています。

介護サービス業者に加え関連機材やシステムを扱う企業への買収や資本参加は、2019年1~6月に国内で63件と前年同期より7割増となりました。
人手不足が進むなかでM&Aによって事業を広げる動きに加え、ハイテク企業の技術を取り込んで質の高いサービスを目指す企業が目立っていると言います。

専門会社の調査によれば、1~6月は前年同期より26件増え、今年は、介護保険制度が始まった00年以降で過去最高だった18年(81件)を上回る勢いだそうです。

今回の【ビジネスEYE】では、介護サービス業界のM&A増加の背景に迫ってみましょう。
(参考:日本経済新聞/2019年8月27日)

1.人手不足の介護サービス業界

先日の【ビジネスEYE】でも触れましたが、介護サービス業界は各社倒産しかねないほどの求人難にあえいでいます。

もともと人手が足りないとされてきましたが、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になる25年にはさらに拍車がかかることになります。

厚生労働省では、25年には、介護サービス業界で働く人材の需要は253万人と予測していますが、現状では215万人程度しか確保できないという予想が強まっており、なんと約38万人の不足が見込まれているのです。

ただ手をこまねいているわけではなく、外国人労働者を確保して人手不足をしのごうとする動きが活発化していますが、焼け石に水の状況で、67%の事業所が引き続き人手不足と感じているそうです。

居住施設を構える企業の場合、「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」で定められた基準に従い、各都道府県へ設置届を提出する必要があります。
指針では、法定のサービス内容だけでなく、居住面積や入居者1名あたりに対するスタッフの数などが決められているため、非常に多額の設備投資が必要となります。
その回収のためにも安定した稼働を維持しなければなりませんが、稼働するためのスタッフの確保ができない、というのが根っこにありそうです。

事業を拡げ、安定した稼働を確保するための手法としてM&Aが浸透しつつあるのだと思います。

2.実際には

国内のM&A全体の件数も伸びていますが、介護サービス関連の伸び率は、合従連衡が目立つ食品メーカー(18%増)などよりも高くなっています。

このうち身体のケアや給食、専門スタッフの派遣など、介護サービスに直接関わる企業が対象になった案件は30件弱。昨年前半の2倍にのぼりました。

求人情報のマイナビ(東京・千代田)は2月、介護スタッフ派遣などのブレイブ(東京・新宿)を子会社化しました。
介護サービス業界の人手不足を商機とみて、求人メディアの運営や採用などのノウハウをつぎ込むようです。

介護サービス業者は中小・零細事業者が多いため、前述の人手不足だけでなく、介護報酬の実質減額などで経営不振に陥るケースも少なくありません。

事業を拡げるため自社で拠点を増やそうにも、条件の良い立地が限られていたり、東京五輪を控えて施設の建築費が上がったりしていることも、M&Aの増加につながっているようです。

介護が必要な人にサービスを続けるため、経営が厳しくなると廃業より事業や会社の譲渡を選ぶ会社がが他の産業よりも多いということなのでしょう。

マイナビのような異業種からの参入だけでなく、同業同士での参入も加速する介護サービス業界。
事業拡大による安定稼働だけでなく、親和性の高い住宅・建築系事業者、保険会社、警備会社等による既存事業とのシナジー効果や、地域ニーズに密着し、医療事業とも連携したサービスとして差別化する目的でのM&Aがさらに増えていくと思います。

少子高齢化、人口減少によって既存のビジネスが先細ることは想像に難くありません。
この流れにのって介護分野への進出が増え、新たに高齢者マーケットを獲得する企業も出てくるのではないでしょうか。
新たな血が入ることで業界の新しい勢力図も更新されそうですね。

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著者プロフィール

中村 亨

日本クレアス税理士法人コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングコーポレート・アドバイザーズM&A代表。公認会計士・税理士。

監査法人トーマツを経て会計事務所を開業。600社程のベンチャー企業の経営・財務に携わる。

2005年に株式会社コーポレート・アドバイザーズ・アカウンティングを設立し、約100人のプロフェッショナル集団を築き上げる。著書に『「俯瞰」でわかる決算書』(ダイヤモンド社)、『不況でも利益を生み出す会計力』(東洋経済新報社)など。