アラフォーOLが
不動産投資デビュー
してみた。

【番外編】東京のディープなワケあり物件

物件の異常な数値の裏には・・・?

検索サイトなどでずーっと横並びで物件を探していると、都内にも関わらず明らかに利回りが「高すぎる!」と思われる物件がある。

だいたいが土地権利が所有権以外(借地権など)だったり、再建築不可(容積率オーバーなど)の物件だ。現金購入ならアリかもしれないが、銀行から融資を受けにくくなるため、それらの物件は一般投資家は敬遠する。

とある期間、その手の「ワケあり物件」を集中的に見に行った時があった。外れ値的なキワキワの物件も見ておかないと、普通の物件の良さが分からない。あるいは将来的な物件ポートフォリオを考慮した際「ここぞ!」という時に使える飛び道具カードになるかもしれないからだ。

ということで、都内で利回りが13%以上の物件を巡るダークな旅に出ることにした。これはこれで経験値的にはワクワクするツアーだ。

【ダーク物件ファイル①大塚の謎のワンフロア】

大塚の物件は、図面を見た瞬間からミステリーツアーは始まっていた。
インクがかすれた図面はどーんと広いワンフロアを四角く何十個にも区切ってあるのみで、まずもって用途も分からなかった。

住居か店舗かも不明だし、窓やトイレなどの基本的な配置も分からない。絵面だけだとシステムのフローチャートのようだった。
仲介業者は中華系の会社で、メールの文面も明らかに怪しかった。
「コノ物件、お得。でもコノ物件、紹介カギル」的な、新聞文字を切り貼りした脅迫文のようなテイストだった。
建物自体は通常のRC作りで築年数も20年程度。建物名で検索をすると、他の階のフロアは通常のファミリータイプ住居として売りに出されているが、都心らしく利回りは6%程度だった。この物件だけ2階ワンフロアで利回り15%なのだ。

「臭う、臭うがな」と小鼻をピクピクさせながらも、この物件の謎を暴きたくて私は現地に行ってみることにした。「真実はいつもひとつ!」と謎の正義感すら芽生えていた。

現地に到着した。事前に画像検索した通り、建物自体は10階建ての大きな茶色の物件で(よくあるライオ◯ズマンション的な外観)大きめの国道に面していた。

建物に着いて、まず困ったのが「2階の入口がワカラン!」というか「2階が存在しない!」ということだった。
1階は歯医者や服飾店などの店舗が入り、エレベーターの階数ボタンは3階からしかない。予想外の事態に名探偵マツコナンは首をかしげた。でもここで踵を返しては大塚までの電車代すら回収できない。

1階店舗の内廊下をグルグルしていると、服飾店の横にマネキンや業者の段ボールなどが置かれている店舗専用階段のようなものを見つけた。私は左右に人がいないことを確認し、マネキンに紛れるようにして階段を登った。
…まず名探偵の嗅覚がシャープに反応を示した。
というより探偵じゃなくても、「な、なんか臭い」と、そのドブ川のようなスメルは感じたことだろう。
そして2階についた。2階の内廊下には大量の生乾きの洗濯物が干されていた。Tシャツ短パンなどの若い男もののお召し物だ。その内廊下にたった一つだけドアがあった。

「もうこれ以上は行っちゃヤバい」と本能がアラートを告げていたが、携帯電話で誰かと通話をしているフリをして、私はそっとそのドアを空けた。
すると、ドアの先には窓もない薄暗い廊下が続き、その両側に夥しい量の貧相なプレハブ小屋のようなドア(というか突っ張り棒で仕切ったカーテンだけだったかも)。
ちらっと目の隅に飛び込んできたのは、ハングル?アラビア?中国語?とにかく異国語の張り紙。…異臭は一層強くなった。

「ひーーーー」と心でシャウトし、私はすり足で元来た階段に戻った。
マネキンエリアに戻ったあたりでその階段に行こうとしているアジア系の青年とすれちがった。

客観的に利回りから割り戻すと、あのフロアには信じられない人数が詰め込まれていることなる。
大塚駅にまで戻って私は「見ちゃイカンものを見た」気分になった。これ以上、あの物件のことを考えるのはやめよう。この世には素人が探っちゃいけない扉もある。
リアルに「臭いものには蓋」経験だった。

【ダーク物件ファイル②超都心のエアスポット番地】

お次は市ヶ谷にある木造築45年ほどの、学生向けシェアハウスだ。
奥まった立地で接道義務を果たしていないため再建築は不可だ。利回りが13%なので、キャッシュで購入して賃料だけでぐりぐり稼ぐには立地的にも申し分ないだろう。

「木造物件も味わい深いかもなぁ」と少しばかり楽しくなって私は市ヶ谷駅に降り立った。
まずビックリしたのは市ヶ谷駅から神楽坂方面に向かうエリア一体が大手企業「大◯本印刷(通称:D◯P社)帝国になっていたことだ。

8年前にこのエリアでマイホームを探した際もD◯P関係の建物が多かったのだが、今は道も何もかも含めてその一体は再開発が進み「D◯Pの国」と化していた。市ヶ谷という超都心の一等地にも関わらず、大勢のD◯P社の工場の作業着を着た人が公道を普通に行き交っている光景はなんだか異様だった。
付近は従業員用や関係者狙いのタワマンなどもピカピカに再開発されており、「ものっすごい人工的な街」という様子だった。

こんなところに木造があるんかな?と訝しく思いながら歩いた。
目当ての物件の一つ前の番地のタワマンの脇道にたどり着いた途端、日の当たらない「茶色い一角」が現れた。
すごい雑な例えだが、本当にその物件のある「◯丁目」という一角だけが、ビジュアルが茶色かった。一戸建ての昭和の木造物件ばかりが並んでいたのだ。中には絶対に人は住んでなさそうな廃墟まである。

「な、なんじゃこりゃ〜」と思いながら、その番地の奥地にあるシェアハウス物件にたどり着いた。
物件そのものは木造の良さを生かしながらモダン和風のリフォームをかけていた。その建物だけ見ると「金沢にある小粋な古民家風民宿。いとおかし。」という風情なのだが、いかんせん数センチ横には窓のひび割れた廃墟がぴったりと寄り添っている。

「う〜む、残念」と思いつつも、私は物件そのものより、その◯丁目のナゾが気になった。その場で色々ネットで検索しても有力な情報はヒットしない。普通に考えると、「土地の持ち主が頑固ジジイで再開発の要求に応じなかった」というあたりの理由であろう。

でも実際に、D◯P社帝国とタワマンの人工的・近代的な周囲のエリアとの異様なギャップを現地で目の当たりにすると、「この◯丁目を開発すると、祟りや呪いがあるという言い伝えが代々あるそうな〜」と八つ墓的な理由が思い浮かんでしまった。
東京砂漠の歪か!?・・・真相は謎のままである。

ディープな物件が多い町、東京

他にも、高齢者ばかりを集めた低層階物件(大井競馬場)、ビジネスビルのワンフロアがホストの寮になっている物件(新大久保)、「秘伝のタレを注ぎ足して作りました」的なツギハギの違法建築物件(新小岩)、などがツアーでは見学ができた。
新米投資家にはスパイシーすぎる物件ばかりだ。

「東京ってすごい街だな〜」と上京したてのウブな小娘のようなことを思いながらも、結局はそのディープタウンの居酒屋で、毒に当てられたようにビタビタに酒に溺れてしまうのであった。