株式投資で割安な成長株を見つけて投資するための銘柄を見つける手法としてPERがあります。しかし、成長株ほどPERが高いこともあります。そこで成長株の割安性を判断する指標として「PEGレシオ」があります。PEGレシオは企業の成長を加味した指標です。この記事ではPEGレシオの使い方について株式投資スクール講師が解説します。
受講生から、PEGレシオの計算で使用する数値の求め方やPEGレシオの使い方について、下記のような質問がありました。
【受講生の質問】
PEGレシオの計算で年間成長率を出すには売上高を使うのでしょうか? そして売上高が以下のように推移している場合、下記のように年間成長率を計算するのでしょうか?
2017年 20777
2018年 22584
2019年 25000
2020年 27500
22584(2018年)÷20777(2017年)=1.08
25000(2019年)÷22584(2018年)=1.10
27500(2020年)÷25000(2019年)=1.1
この3つは数字が近いですが、数字に幅がある場合、PEGレシオを出すにはどの数字を使えば良いのでしょうか?
まずは、PEGレシオで使う数値や成長率の求め方について解説し、その後に利益成長率はどの数字を使えば良いか、PEGレシオの使い方を解説します。
Contents
PEGレシオとは?
はじめに、PEGレシオについて復習しましょう。PEGレシオとは株式投資で使われる用語の1つで「ペグレシオ」と読みます。正式にはPrice Earnings Growth Ratioといい、株価に対する企業の成長性を分析する指標です。PEGレシオを算出するには以下の式を用います。
PEGレシオ=PER(株価収益率)÷ 企業の利益成長率(%)
この式からPEGレシオは企業の利益成長に対するPERの割合を表すことが分かります。つまり利益成長率の高い企業であれば高いPERでもPEGレシオが低くなり、割安だといえるのです。逆に一見低いPERの企業だとしても利益成長率が低ければPEGレシオの値は大きくなり、割高になります。
例えば以下のようなPERと利益成長率になっている2つの銘柄をPEGレシオで表すと数値の大小が入れ替わるのです。
PER50倍÷利益成長率50%→PEGレシオ1
PER10倍÷利益成長率5%→PEGレシオ2
このようにPERで割高と分析する銘柄が、PEGレシオでは割安と分析できることがあります。逆に低いPERでも成長の乏しい銘柄はPEGレシオでは割高と見ることができます。
利益成長率は今期と来期の成長率を用いる
PEGレシオで使われる利益成長率は今期と来期の予想成長率の平均を用いてください。なぜならPEGレシオが最も有効なのは成長性のある中小型株です。したがって過去の業績だけでなく今後の成長性を加味してPERとの関係を分析することが重要だからです。
PEGレシオの割安判断は「1以下」
またPEGレシオは数値が1を下回ればその株は割安だと判断できます。したがって先程の例の通り、成長著しい企業であれば高いPERでもPEGレシオでは割安になることがあるのです。つまりPEGレシオは以下のような銘柄で利益を得たい投資家に使いやすい指標になります。
企業のビジネスが市場に認知されシェアを拡大中の株
景気が回復し中長期的に上昇トレンドの株
これらの株はPERでは割高と判断されても、利益の成長が予想されます。したがってPEGレシオで分析し直して割安株を見つけることができるのです。
利益成長率はどの数字を使うのか
PEGレシオが企業の利益を用いて分析する指標であることが分かりました。しかし企業の利益には様々な種類があります。PEGレシオではどの利益を使えばよいのでしょうか。
結論を先に言えば「どの利益を使うかは投資家次第」です。つまり企業が出す利益の種類とその意味をふまえて分析することが重要になります。そこで企業が発表する利益とPEGレシオでの使い方を解説します。
売上高はPEGレシオではなくPSR
「PEGレシオの計算で年間成長率を出すには売上高を使うのでしょうか?」という質問についてですが、通常PEGレシオは利益に対して用います。したがって売上高をPEGレシオで使うことはないのです。売上高に関してはPSR(株価売上高倍率)という別の指標で分析することができます。
PEGレシオは企業の各種利益をその特性をふまえて使う
そこでPEGレシオでは企業が発表(予想)する利益を用いることになります。では企業の様々な利益をどのように扱えばよいのでしょうか。以下のポイントを押さえておくことをおすすめします。
純利益・・・・・ 「株主の利益」として妥当だが特別損益が入るため利益変動が大きい
営業利益・・・ 「本業の実態」に近い利益だが本業以外からの利益が反映されない
経常利益・・・ 為替変動リスクがあるものの企業の「利益の実態」に近い
ネット証券などのスクリーニング機能では純利益を用いられています。しかし中長期的な成長を狙った投資では経常利益を用いて分析してみてください。
PEGレシオについて講師の見解
数値は厳密には決まっていませんが、私は経常利益の伸び率で計算しています。
一番使い安いのは四季報に掲載されている今期と来期の予想経常利益の伸び率の平均です。また、その後も維持できそうかという定性面を考えて、大体、この会社は今後数年、経常利益が毎年◯%伸びていきそうなイメージかということで数値に自分なりに修正を加えても良いかと思います。
PEGレシオで割安株を探す方法
次にPEGレシオを用いた割安株の探し方を実際のケースを元に解説しましょう。【3288】オープンハウスは東京都千代田区に本社を置く不動産業の会社です。都内23区から横浜にかけてを地盤にしており、比較的小さな戸建て住宅を得意としています。株価は2020年3月3日の終値で2780円、PERは6.97倍です。
このようにオープンハウスは現状のPERを上回る(平均)利益成長率を残しています。PERでも十分割安感がありますが、PEGレシオで分析することで割安でかつ成長株であることが理解できるのです。
PEGレシオのデメリット
このように割安な成長株を探すのに便利なPEGレシオですが、以下のデメリットがあります。
利益が低下している企業には使えない
PEGレシオは利益が成長することを前提にした指標です。そのため減益決算になるとPEGレシオはマイナスになり評価ができなくなります。
この対策としては、成長企業でも一時的な減益であれば問題ありません。したがって前後の決算をふまえて成長性を分析して、利益成長率を修正することでデメリットを補います。
過去の成長が継続するとは限らない
過去の利益成長をもとにしたPEGレシオの場合、同程度の利益成長が今後も続くという前提が必要です。成長著しい業界では企業間の競争が激しくなり、利益の成長率が低下する可能性があります。
この対策としては、投資先企業の成長性を精査することが重要です。また利益成長率が想定以下だと分かった時点で損切りを行うことで、大きな損失を防ぐことができます。
業績予想の情報は変動することが多い
企業やアナリストが発表する「予想利益」をもとにPEGレシオを分析する場合があります。しかし予想通りの業績にならないことが多いのです。例えば強気の予想が下方修正された場合、株価の下落が想定されます。逆に慎重な予想が上方修正されると割安銘柄を見逃すリスクがあるのです。
この対策としては、企業ごとの業績予想の修正傾向を分析します。過去の上方修正・下方修正の実績を調べることで、PEGレシオを修正することが可能です。
▼講師プロフィール
戸松 信博
株式投資スクール講師
グローバルリンクアドバイザーズ株式会社代表。1995 年からいち早く中国株に注目し、独自の投資研究を積みつつインターネット上で中国株専門の情報配信を開始。詳細で的確な分析が口コミで広がり、購読者は3万人以上。